ツムラ(東証1部:4540)

【ポイント】
国内シェア80%を誇る医療用漢方製剤(以下、漢方薬)のトップ企業。地道な普及・啓蒙活動(育薬:いくやく)の結果、医療機関側の漢方薬に対する認知度が高まりつつあり、業績は好調だ。第1四半期には、129処方中116処方の売上高が前年同期を上回った。経費削減も予想以上に進み、28日には中間及び通期の業績予想を上方修正。06/3期通期では、4.9%の増収、30.9%の経常増益が見込まれる。
ニッチな領域で世界杓にも競合企業が少なく、また、今後出現する可能性も低い。7月に発表された中期経営計画では08/3期に連結売上高983億円、経常利益167億円の達成を目指しているが、足下の堅調な販売や今後の市場拡大と競合の少ない市場特性等を考えると、この中期計画は保守的。大きなアクシデントがない限り、達成される可能性は高い。
1.漢方薬の認知度向上を追い風に業績回復
1893年、津村順天堂として創業、女性用の諸症状改善剤「中将湯」を発売した。入浴剤の先駆けとなった「バスクリン」は今でもポピュラーだが、そのデビューは1930年、もう70年以上も前になる。76年には同社の漢方薬33品目が初めて薬価収載された(医療用医薬品としての指定を受けた)。現商号に変更したのは88年。
漢方薬は薬価収載され健康保険の適応となったことで市場が拡大、92/3期のピークには同社の漢方薬の売上も1000億円を超えた(このうち主力製品「小柴胡湯」の売上が約300億円)。しかし、「小柴胡湯」の副作用問題が発生し漢方薬全体の売上高が減少、バブル期の多角化失敗による財務内容の悪化が追い討ちをかけ会社存亡の危機に瀕した。
このため、95年に就任した風間社長のもとで徹底的なリストラを実施。99年以降は、漢方薬の長期投与が認められた事に加え、地道な普及・啓蒙活動の成果も上がりはじめ、漢方医学教育が全医科大の医学部で実施されるようになるなど事業環境が好転。業績は拡大基調に転じ、ピーク時(93/3期)には1500億円程度にまで膨らんだ有利子負債が前05/3期末には551億円に減少した。
05/3期の売上構成は、医薬品が83%、家庭用品が17%。グループは同社の他、連結子会社8社、持分法適用会社1社で、連単倍率は売上高1.04倍、当期利益1.05倍。原材料選別・加工の拠点である中国に加え、米国に開発・販売の拠点を有する。
2.08/3期に連結売上高983億円、経常利益167億円の達成を目指す
(1)漢方薬とは
漢方医学とは、古代中国で生まれ日本で独自の発展をとげた伝統医学。江戸時代末期に西洋医学「蘭方」と区別するため「漢方」と呼ばれるようになったと言う。また、自然治癒力を高めて体調を整えることを基本とし、患者一人ひとりの体質や症状によって薬を使い分けることも特徴である。
漢方薬とは、漢方医学に使用される薬方(処方)のことで、植物や鉱物、昆虫など長い経験の中で効きめがあるとされた物質を加工した生薬を原則として2種類以上組み合わせた薬である(臨床試験を行って承認を得る必要がある)。例えばよく耳にする「葛根湯」は、葛根(クズの根)、桂皮(シナモンの皮)、生姜、大棗(ナツメの果肉)、甘草(カンゾウの根)、芍薬(シャクヤクの根)、麻黄(クサマオウの茎)の7種類の生薬からできている。
また、アレルギーやストレスなど精神的な影響によって起こる病気や、慢性的な病気や全身的な病気の治療など、複雑な症状に効果がある。一方、新薬とも呼ばれる西洋薬は、通常、人工的に化学合成された一つの物質でできている。このため、即効性に優れ、感染症の菌を殺す、熱や痛みをとる等、一つの症状や病気に対する治療に適している。
漢方薬は、参入障壁が高いことも特徴。生薬の原材料は天然由来物であるため、新規参入して原材料を必要量、調達することは難しい。また、漢方薬は、1800年以上前にその構成や製法が公開されており、特許は存在しない。しかし、新薬のように単一成分の薬剤ではない多成分系の薬剤なので、後発品を出すこと自体難しく、未だに後発品として認められたものはない。
05/3期の国内の漢方薬の市場規模は薬価ベースで918億円。医療用医薬品に占めるシェアは1.3%にとどまるものの、同社は約80%のトップシェアを有する。
(2)中期経営計画
05年7月に中期経営計画(06/3期〜08/3期)を発表した。基本方針として、@漢方医学の確立(普及から確立にステージアップ)、A漢方の国際化、B生薬・漢方研究の充実、C家庭用品事業の営業利益黒字化体制の構築、及びDグループ経営を掲げ、最終の08/3期に連結売上高983億円、経常利益167億円、当期利益89億円の達成を目指している。
@については、これまでも臨床医を対象とする漢方医学セミナーの実施や全国に80ある大学医学部・医大で漢方講座の創設・拡大、更には漢方外来の開設など漢方医学の普及活動に注力してきた。この結果、01年3月発表の医学教育モデル・コア・カリキュラム(医学教育の指針を示したもの)の中で「和漢薬を概説できる」との項目が加わり、漢方医学の基礎的知識の習得が大学卒業までの到達目標の一つになった。また、2006年度には全国80の医科大学のうち7割の大学に漢方外来が設置され、2009年度には全大学に設置される予定である。今後、医師国家試験に採用されるようになれば、真の漢方医学の確立、市場拡大に一段の弾みがつこう。
Aについては、米国において、治療が難しい疾患で漢方薬が効果を発揮しやすい領域に的を絞り医療用医薬品として開発を進めていく。具体的には、更年期障害に伴う「ホットフラッシュ(のぼせやほてりなど)」に対して、「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」の臨床試験を進め、11/3期の上市を目指している。また、手術直後のイレウス(術後消化管機能障害)治療薬として、「大建中湯(だいけんちゅうとう)」の臨床試験を準備中である。
Bについては、漢方製剤の育薬において、新薬の有効な治療薬がない疾患で、漢方が特異的に効果を発揮する疾患に的を絞る。また、原料生薬では、深圳津村を拠点とした中国国内流通ルートの整備を進めトレーサビリティを強化。また、生薬資源の評価・保護・育成の一環として、ラオスにおける生薬の栽培研究に取り組む。
Cについては、ブランドとアイテムの絞込みにより原価低減を図ると共に、広告宣伝費及び物流費を中心に販管費を圧縮し、安定的に利益計上できる体質の構築を図る。
Dについては、経営改革の一環として、グループ経営のあり方を改めて見直す。具体的には、漢方製剤の原料生薬の調達に係わる合弁会社及び子会社の業務内容の整理、業務分担方針の明確化及び効率化を図る。また、物流業務に係わる子会社と物流センターの機能整理を進める。
3.来07/3期も引き続き漢方薬の拡大が続く見込み

9月28日に06/3期の業績予想を上方修正した。主力の漢方薬は、継続して実施している漢方医学の普及活動の成果に加え、花粉症の流行などもあり好調を持続。売上高はほぼ計画通りで推移している。ただ、経費の圧縮等が予想以上に進んだことに加え、繰延税金資産の増加等により中間純利益はこれまでの予想を大きく上回る見込み。もっとも、この繰延税金資産は下期に償却する予定のため、通期業績に与える影響はない。
下期も引き続き漢方薬の成長を見込むほか、薬価改定の影響や上海津村製薬の開業費などがなくなる。ほぼ当初計画通りと見込んでいるものの、10月1日付で子会社 日本生薬(株)と合併することや、上期に行なった土地の売却等に伴い、法人税、住民税及び事業税が当初予想を下回りそうだ。
来07/3期は、06年4月に予定されている薬価改定(4〜5%程度の引き下げが予想される)や米国での研究開発費の増加等はあるものの、漢方薬の拡大により増収・増益が続く見込み。ただ、税負担の正常化により当期利益は減少が予想される。
